不妊治療や妊活では、原因・年齢など異なること状態のことも多いですが、「お子さんがほしい」という思いは、どのご夫婦にとっても同じ思いであり願いです。妊娠には、さまざまな要素が絡みあっています。要因や治療と鍼灸との関わりについてご紹介します。

    不妊治療

    不妊の定義と保険の適用

     健康なご夫婦が避妊せず、1年以上妊娠しない場合「不妊」状態にある。とされています。病院で治療を行うためには病名が必要です。不妊の定義は病院で治療を行うために便宜上病名が必要になるのでつけられていますが、病気ではありません。ただ、今は、その状態にあるという状況になります。

     2023年4月から体外受精や顕微授精などの生殖補助医療も保険の適応となりました。
    年齢制限や回数制限などがあり、自由診療のときに行えていた検査や治療が行えなかったり、その他にも変更されたことがあるようです。保険の適応にはメリットもデメリットもありますが、でも、一番大切なのは、保険の適応開始前と開始後での妊娠率の変化です。まだ、始まったばかりなのでこれから問題点も出てくる可能性は高いですが、妊娠率または出生数が上がることを願っています。

    不妊と関係の深い因子

     不妊治療のため病院受診をすると血中のホルモンの数値や卵管や子宮などの状態を調べたりします。それらの検査で分かるのは、不妊と関係の深い因子です。

    不妊因子には

    ①.内分泌・排卵因子
    ②.卵管因子
    ③.子宮因子
    ④.頸管因子
    ⑤.免疫因子
    ⑥.機能性不妊(原因不明)

    などがあります。

     検査により明確な因子が発見された場合は、その治療を行うことで不妊因子はなくなります。ただ、検査により因子が見つからなかった機能性不妊(原因不明)、また、発見された因子は取り除けたのに妊娠に繋がらない場合などは、その原因因子は特定することは難しくなり、不妊因子がないのではなく、見つからなかったという考え方もできます。


    ※ 最近、甲状腺ホルモン(内分泌・排卵因子)の基準値は、以前は内科的に問題ない基準値でしたが、欧米や糖代謝などと同じように少し厳しくなったりしています。

    不育症・着床障害・流産

    妊娠はするけれども、2回以上の流産、死産を繰り返して結果的に子供を持てない場合、不育症と呼びます。 

    習慣(あるいは反復)流産はほぼ同意語ですが、不育症はより広い意味で用いられています。

    日本、アメリカ、ヨーロッパでは2回以上の流産・死産があれば不育症と診断し、原因を探索する事を推奨しています。また1人目が正常に分娩しても、2人目、3人目が続けて流産や死産になった際、続発性不育症として検査をし、治療を行なう場合があります。

    不育症イメージ

     

    なお、妊娠反応は陽性だが、子宮内に赤ちゃんの袋(胎嚢)が見えずに終わる生化学的妊娠(化学流産)は、現在のところ流産には含めていません。しかし、2017年に欧州生殖医学会(ESHRE)は、生化学的妊娠も流産の回数に含めるとの認識を初めて示しました。繰り返す生化学的妊娠を不育症に含めるかは、今後の課題です。なお、繰り返す生化学的妊娠についての、明確な治療法についての指針やガイドラインは現在のところありません。これからの課題です。

    図1に厚生労働研究班による不育症のリスク因子別頻度を示します。これは研究班により集計した日本のデータです。子宮の形が通常と異なる子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常(機能亢進症もしくは機能低下症)が6.8%、両親のどちらかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体陽性が10.2%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%あります。これらの頻度は2016-2018年に日本医療研究開発機構(AMED)研究班でも再調査しましたが、ほぼ同じ頻度でした。世界的に推奨されている検査は一次検査として示しました。なお、夫婦染色体検査については、メリット(流産のリスクならびに流産率が判明する)、デメリット(精神的苦痛、どうする事もできないという悩みなど)があります。しかし、不育症外来を受診した染色体均衡型構造異常を持つカップルの生児獲得率(子供を持てる確率)は、一般のカップルとは変わらない事が知られています。染色体構造異常があると流産を繰り返し、子供を持てないと思われがちですが、それは間違いです。流産回数は一般のカップルより多いですが、最終的には流産せずに子供を持てる確率は一般の方と変わりません。

    子宮形態異常といって、子宮の形が通常と異なる場合、とくに中隔子宮では流産しやすい事が判っています。今のところ、手術をした方が良いというエビデンスはありませんが、班研究に加わった研究者の多くが、手術をした方が、生児獲得率が上昇する事を経験しており、論文として報告しています。ただし、一部の症例で手術後に子宮内膜が癒着することで、不妊症になってしまうデメリットがあります。メリット、デメリットを説明してもらった後、方針を決めるとよいでしょう。なお、子宮形態異常は遺伝する事は、ありません。

    甲状腺の機能亢進、機能低下とも内科的治療を受けた後は、良好な生児獲得率が得られます。まずは甲状腺機能を正常化させてから、妊娠に臨んで下さい。

    また、第XII因子欠乏やプロテインS欠乏は、これらに対する自己抗体により、活性が低下する事が研究班により明らかとなりました。また、これらの自己抗体が生殖に重要な役割を果たす、epidermal growth factor(EGF)に交叉反応する事も判ってきました。そのため、研究班では不育症に関連するリスク因子として、第XII因子活性、プロテインS活性を選択的検査として分類しています。これらの場合、低用量アスピリン療法を行なうと流産率が減少する事が、研究班のデータで明らかとなりました。しかし、未だエビデンスレベルの高い標準治療とはなっていません。担当医と相談して下さい。

    なお、不育症例に陽性率の高い抗リン脂質抗体の一種である抗PE抗体陽性者が、34.3%に認められますが、この抗体が本当に流産・死産の原因になっているかは、未だ研究段階です。ただし、無治療だと流産率が高く、低用量アスピリン療法で流産率が減少する事が研究班のデータベースから明らかになりました。なお、検査は自費検査となります。

    その他、NK活性という免疫の力が亢進している症例も認められますが、この検査の意義も未だ研究段階にあります。

    不育症のリスク別頻度

    検査をしても明らかな異常が判らない方が65.3%にも存在します。この頻度は欧米とほぼ同頻度です。この「リスク因子不明」という用語は正しくは「偶発的」とした方が良いのかも知れません。これはたまたま流産を繰り返した方と、現在の検査法で検出されない未知のリスク因子を持っている場合の2つの可能性があります。

    流産の原因で最も頻度の高いものは赤ちゃん(胎児)の染色体異常で約60~80%に存在します。したがって3回流産したことのある人で、赤ちゃんの染色体異常がたまたま3回くり返した運の悪い人は0.8×0.8×0.8=0.512となり、51%を占めます。この偶発的流産・リスク因子不明(65.3%)の中で、51%は何のリスク因子もない運の悪いカップルになります。残りの10%は未知のリスク因子を持つ人ということになります。不育症イメージ画像

    16.反復着床不全

    1. 反復着床不全とは

    体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるといわれている。よって、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「反復着床不全:repeated implantation failure:RIF」という1)。

    2. 着床不全の原因

    ① 受精卵側の問題
    → 着床前遺伝子診断(現在は学会の検査許可待ちとなっている)
    ② 子宮内の環境の問題
    → 子宮鏡検査(粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、中隔子宮、慢性子宮 内膜炎など)
    ③ 受精卵を受け入れる免疫寛容の異常
    → 免疫検査(採血で、Th1/Th2 細胞、ビタミンD)

    3. 具体的な治療法

    ① 慢性子宮内膜炎
    RIFの約30%に慢性子宮内膜炎を認めると言われている2)。子宮鏡検査で慢性子宮内膜炎を疑った場合、子宮内膜生検を行い、免疫染色でCD138陽性の形質細胞を確認し診断する。その原因は、大腸菌、エンテロコッカス、連鎖球菌、マイコプラズマ、クラミジアなど様々で、検出されないこともある。そのため子宮鏡検査の子宮内腔所見が重要となる。最も典型的な所見は「strawberry aspect」といってイチゴの外表用に発赤した子宮内膜といくつもの白斑を認める(図1)2)。このような所見を認めた場合、広域の抗菌薬の投与が必要で、具体的には第1選択薬としてドキシサイクリン(ビブラマイシン®︎,100mg)1日2回×14日間を使用し、改善しなければシプロフロキサシン(シプロキサン®︎,200mg)+メトロニダゾール(フラジール®︎,250mg)1日2回×14日間を投与して治療することが推奨されている2)。


    図1 慢性子宮内膜炎の子宮内腔所見

    ② Th1/Th2
    受精卵に対する子宮の受容性は、T細胞を介した免疫応答が担っている。T細胞は産生するサイトカインにより、IL2,IFN-γ,TNF-αなどを産生し細胞性免疫を誘導するTh1細胞と、IL4,IL13などを産生して液性免疫を誘導するTh2細胞に分類され、これらを制御性T細胞が制御している。正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持される4)。体外受精後に得られた良好胚を子宮内に複数回移植しても妊娠しないRIFの患者は、明確な治療法もなく、胚移植後の妊娠率は若年女性でも10%未満である5)6)。
    半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要である。実際にRIF患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較すると
    RIF患者が有意に高い4)6)。NakagawaらはTh1/Th2比が高いRIFの患者に免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ®︎)を併用し胚移植を施行した妊娠率が63.6%と非常に高いことを報告した6)。タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1/Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避けることで、着床に至ると予想される。

    表1 反復着床不全症例に対するタクロリムスを併用したIVFによる妊娠率(文献6より)

    ET:胚移植

    ③ ビタミンD
    ビタミンDの欠乏した不妊患者がRIFと関係している報告があり、ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、一方、免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制することが報告されており、妊娠に有利な免疫状態を誘導することが知られている7)。貯蔵型ビタミンDである25OHビタミンDが30ng/mL未満の患者にはサプリメントを服用させることも重要である。
    ④ 子宮内膜スクラッチ
    着床不全の検査で異常を認めない場合、治療法として子宮内膜スクラッチがある。着床における炎症反応を誘起し、子宮内膜脱落膜化を促進し、子宮内膜の創傷治癒過程において幹細胞を活性化する可能性がある。
    複数回胚移植を行った症例にしか効果がないとされているが、スクラッチを行なって着床率が低下する報告はほとんどない8)。スクラッチを施行した場合の妊娠率は施行しない場合と比べて2.61倍(オッズ比)とされている8)。
    原則、胚移植の前周期の黄体期に行う。ただし、採卵時に行うことは避けたほうがいい。スクラッチの効果は約4ヶ月持続するとされている。
    ⑤ その他の原因不明の着床不全に対するサポート
    ・アシステッド・ハッチング(胚培養後に透明帯をレーザーで切開する)
    ・エンブリオ・グルー(着床に重要なヒアルロン酸を多く含有する培養液で培養後胚移植し、着床をサポートする方法)
    などがある。

    2回以上の流産(妊娠22週未満)・死産(妊娠22週以降)の既往がある場合、不育症と診断されます。異所性妊娠や絨毛性疾患(胞状奇胎)、生化学的妊娠は、流産回数に含めません。すでに出産して子供がいる女性でも、その後に2回以上の流産・死産があれば不育症に含まれます。日本には約3万人の不育症の方がいると推定され、決して珍しくはありません。
     不育症のリスク因子を検査し、リスクに応じた形で治療を行うと、次回の妊娠で出産できる可能性が確実に上昇することがわかってきました。図1に厚生労働研究班による不育症のリスク因子別頻度を示します。
     スクリーニング検査は、問診で年齢、過去の流産回数、身長・体重・BMI、嗜好品(喫煙・アルコール・カフェイン)を確認します。臨床的な有用性がわかっているものとしては、子宮形態異常の評価、内分泌検査(甲状腺機能)、夫婦の染色体検査、抗リン脂質抗体検査があります。その他にもいくつかの有用性が期待される検査があります。
     一般的な原因検索の検査を行ってもリスク因子が特定できない場合は、偶然に胎児の染色体異常による流産を繰り返している場合が多く、治療を行わなくても、その後の妊娠で出産できる可能性が高いと言われています。これまでの流産や検査結果について十分な説明を受けた後、次回妊娠への不安を少なくしてから妊娠に臨みましょう。
     流産を繰り返すと、誰もが、正常な反応として気持ちの落ち込みや不安を感じることがあります。医療的な情報提供を含むサポートが次の妊娠につながる可能性があります。まずは早めに産婦人科医を受診し、相談されることをお勧めします。
     また、各地方自治体では、不育症の相談窓口や不育症の公費助成を行っているので、お住いの市町村のホームページなどが参考になります。

    参考資料:AMED 研究 不育症の原因解明、予防治療に関する研究を基にした不育症管理に関する提言 2019  厚生労働省研究班 – 不育症研

    流産とは?

    妊娠したにもかかわらず、妊娠の早い時期に赤ちゃんが亡くなってしまうことを流産と言います。定義としては、妊娠22週(赤ちゃんがお母さんのお腹の外では生きていけない週数)より前に妊娠が終わることをすべて「流産」といいます。

    頻度

    医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産になります。また、妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もあり、多くの女性が経験する疾患です。妊娠12週未満の早い時期での流産が8割以上でありほとんどを占めます。

    原因はなんですか?

    早期に起こった流産の原因で最も多いのが赤ちゃん自体の染色体等の異常です。つまり、受精の瞬間に「流産の運命」が決まることがほとんどです。この場合、お母さんの妊娠初期の仕事や運動などが原因で流産することは、ほとんどないと言って良いでしょう。

    流産にはどんな種類がありますか?

    流産にはさまざまな病態があり、それぞれに名前が付いています。わかりにくいと思いますので、治療法も含めて以下に整理します。

    原因による分類

    • 人工流産
      いわゆる「人工妊娠中絶」のこと。母体保護の目的で母体保護法指定医によって行われる手術です。
    • 自然流産
      上記以外の、自然に起きる流産のことすべてを言います。手術の有無は関係ありません。

    症状による分類

    • 稽留流産
      胎児は死亡しているが、まだ、出血・腹痛などの症状がない場合。自覚症状がないため、医療機関の診察で初めて確認されます。治療として、入院して子宮内容除去手術を行う場合と、外来で経過を見て自然排出を期待する場合があります。医師の判断や患者さんの希望によりどちらかを選択します。
    • 進行流産
      出血がはじまり、子宮内容物が外に出てきている状態。いわゆる「流産」の状態。下記のように「完全流産」「不全流産」に分けられます。

    流産の進行具合による分類

    • 完全流産
      子宮内容物がすべて自然に出てしまった状態。出血、腹痛等は治まってきている場合が多い。経過観察(場合によっては子宮収縮剤投与を追加)で対処できることが多い病態です。
    • 不全流産
      子宮内容の排出が始まっているが、まだ一部が子宮内に残存している状態。出血・腹痛が続いていることが多く、子宮内容除去手術を行う場合が多い病態です。

    流産に伴う状態による名称

    • 感染流産
      細菌などによる感染を伴った流産。母体死亡のリスクが上昇するため、慎重な管理が必要となります。

    流産の回数による名称

    • 反復流産
      流産の繰り返しが2回の場合を「反復流産」と呼びます。頻度は2~5%と言われています。
    • 習慣流産
      流産を3回以上繰り返した場合を特に「習慣流産」と言います。流産は上記のように多くの妊娠で見られ、誰にでもおこる病態です。しかし、3回以上繰り返す場合は1%程度の頻度であり、両親に何らかの疾患が隠れていることもあります。血液検査で判明する疾患、子宮のかたちの異常、カップルの染色体異常などが原因として知られています。専門医療機関で精密検査を行うことも可能ですが、原因がはっきりしない場合も多いとされています。

    流産の時期による名称

    • 化学(的)流産
      尿や血液を用いた妊娠反応は出たものの、超音波検査で妊娠が確認できる前、つまり非常に早い時期に流産してしまった状態を言います。妊娠検査薬が薬局・ドラッグストア等で販売され、広く一般につかわれるようになったためにクローズアップされてきた病態です。妊娠反応を行わなければ妊娠と気付かず、月経と考えて過ごしてしまっていることが多いと考えられます。特に治療は必要なく、経過を観察します。

    流産後の生活は?

    流産後の女性に対して、その血液型(Rh型)によって免疫グロブリン注射が必要な場合があります。これは次回妊娠した際、赤ちゃんの赤血球への影響を予防するために行われます。また、流産から次回妊娠までの期間の長さと次回妊娠の成功率は関係ないと言われています。つまり、流産後に長期間避妊する必要はありません。

    切迫流産とはなんですか?

    胎児が子宮内に残っており、流産の一歩手前である状態を「切迫流産」と言います。前述の「流産」は妊娠継続不可能ですが、「切迫流産」は妊娠継続できる可能性があります。
    妊娠12週までの切迫流産に対して流産予防に有効な薬剤はないといわれています。子宮の中に血液のかたまり(絨毛膜下血腫)がある切迫流産では安静が有効との報告もあります。

    着床不全に関わる「慢性子宮内膜炎」

    慢性子宮内膜炎は、子宮内細菌感染による慢性炎症により子宮内膜にCD138陽性細胞が出現した状態です。

    CD138陽性細胞は受精卵を妨害しようとします。

    「BCE検査」では子宮内膜を採取し、CD138陽性細胞免疫染色にて判定します。

    「慢性子宮内膜炎」は3回以上連続して繰り返す「反復着床不全」の患者さんの34%に見つかることが、私たちの調査により明らかになりました。

    「慢性子宮内膜炎」には治療に抗生剤として「ドキシサイクリン」を2週間の服用することにより約9割が治ります。

    さらに残り1割の抵抗例に対しては他の抗生剤の組み合わせを2週間内服することで「慢性子宮内膜炎」のほとんどが克服できます。それでも治らない場合もありますが、治さないまま移植しても良い結果は期待できませんので、さらに他の抗生剤への変更や組み合わせ・繰り返し等によりしっかり治していきます。

    このように抗生剤を処方し再検査で「慢性子宮内膜炎」が治ったのを確認した後に胚移植するという治療方法により、良好な成績を得ております。

    子宮収縮(エコー動画検査)

    月経周期中の子宮収縮には変化があります。

    生理中は上から下に動いて月経血の排出を助け、排卵期は下から上に動いて精子の受け入れを助け、着床期は動きが止まり受精卵を待っている状態です。

    エコー動画検査では、着床期にエコーを3分間撮影し、10倍速で分析します。

    正常であれば、子宮収縮は着床期には見られません。

    着床期に子宮収縮の所見があると、受精卵の着床を妨げる原因となります。

    そのため、着床期に子宮の動きを治める薬剤を服用していただきます。

    銅亜鉛と着床

    子宮内に銅の避妊具を挿入すると避妊効果は100%となります。これは銅に着床を妨害する働きがあるからです。

    このため、子宮内膜に銅が沈着すると、避妊具と同じ効果が出てしまうことが考えられます。

    銅と亜鉛は同じチャンネルから血中に取り込まれるため、血管内の銅濃度が高い方は、亜鉛サプリの服用で着床障害が治せると考えられます。

    Wilson病ではセルロプラスミンがないため銅があらゆる臓器に沈着し不妊・不育にもなります。

    Wilson病の方に亜鉛サプリを用いたところ、血管内の亜鉛が増え、銅が減り、妊娠出産に至った症例が報告されています。

    25ヒドロキシビタミンD検査

    ビタミンD不足は、

    1.卵の数や質の低下

    2.妊娠率低下

    3.不育症

    4.妊娠合併症(妊娠中毒症、妊娠糖尿病、低体重児など)

    などと関連します。上記の他にも多嚢胞性卵巣(PCOS)・子宮筋腫・子宮内膜症とも関連すると考えらてれています。

    血中ビタミンD濃度が低い場合、ビタミンDサプリメントを服用していただくことにより、改善を図ります。

    ERPeak検査

    ERPeak検査は、胚受容能検査で「遺伝子発現パターン」を用い、いわゆる「着床の窓」のずれを調べます。

    着床の窓をずらして移植することにより、妊娠に至った方も多数おられます。 

    当院では、ただ単に着床の窓の検査をするだけではなく、過去に移植した時の胚の状態(グレード、回復状況)、治療歴、妊娠歴・着床歴等を全て考慮した上で、検査結果をベースに最適な移植時期をご提案いたします。

    不育症とは

    妊娠したものの流産、死産を2回以上繰り返す状態をいいます。

    流産とは、妊娠の早い時期(妊娠22週)までにおなかの赤ちゃんが亡くなってしまうことをいい、妊娠22週以降に亡くなった場合を死産といいます。また流産の内、妊娠12週未満のものを「早期流産」、妊娠12週以降22週未満のものを「後期流産」と定義されています。早期流産は流産全体の約90%を締めています。
    流産は妊娠の10~20%の頻度で起こり、まれなことではありません。この頻度は女性の加齢とともに増加し40歳代の流産は50%とも言われています。
    流産の繰り返しが2回の場合を「反復流産」と呼び、その頻度は2~5%です。そして流産を3回以上繰り返した場合を「習慣流産」と言います。流産は多くの妊娠で見られ、誰にでもおこる病態です。しかし、3回以上繰り返す場合は1%程度の頻度であり、両親に何らかの疾患が隠れていることもあります。

    なお、hCGの尿検査や採血検査で妊娠反応は出たものの、子宮の中に赤ちゃんの袋がみえる胎嚢確認前に流産してしまう場合は化学流産といい、現在は不育症の流産回数には含められていません。

    不育症の原因

    不育症についてはまだ分かっていないことが多く、検査を行っても約半数は原因が特定できないとされます。ですが、不育症の方が検査を行うと、一定以上の頻度で見られる異常があり、「これらの因子があると流産しやすい」という意味で「原因」ではなく「リスク因子」と表現されるものがあります。
    厚生労働省 反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルでは、1回の流産でリスク因子を検査する必要はなく、2~3回以上流産を繰り返す場合にリスク因子の検査を勧めるとしています。

    夫婦染色体異常

    妊娠初期の流産の原因の大部分(約80%)は胎児(受精卵)に偶発的に発生した染色体異常ですが、流産を繰り返す場合は夫婦どちらかに染色体構造異常がある可能性が高くなります。夫婦とも全く健康ですが、卵子や精子ができる際に染色体に過不足が生じることがあり流産の原因となります。

    子宮形態異常

    子宮の形によっては着床の生涯になったり、胎児や胎盤が圧迫されたりして流産や早産が起こりやすくなります。

    内分泌異常

    甲状腺機能異常や糖尿病が流産のリスクを高めるといわれています。
    甲状腺で作られる甲状腺ホルモンには新陳代謝の過程を刺激し促進する作用がありますが、そのホルモンが過剰に作られたり、もしくは必要よりも低下した状態であると流産に影響することが考えられます。
    糖尿病は、高血糖による胎児染色体異状の増加の関与が指摘されており、流産・死産の増加にかかわっていると考えられます。

    凝固異常

    抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症などにより血液が固まりやすくなる異常のことです。血液の流れの遅い胎盤の周りには血栓が生じやすく、胎盤内血栓が形成されると、血流不足が生じ胎盤が壊死した状態(胎盤梗塞)となってしまいます。胎児は胎盤を通じて酸素や栄養を受け取っているので、それが妨げられ、赤ちゃんの発育不全や、流産・死産につながることがあります。

    母体の高齢

    これらのリスク因子とは別に、母体の高年齢は流産のリスクを高めます。女性の卵母細胞の数は胎児期ピーク(約600万~700万個)を迎えその後増加することはありません。そのうち生涯にわたり排卵する卵子は400~500個と全体の1%もありません。卵母細胞は排卵の準備が開始するまでは減数分裂の途中の段階で停止している状態でいます。年齢を重ねるごとに、排卵までの停止期間は長くなり、この長い停止期間が染色体異状の要因の一つとされています。その結果として、受精しにくくなったり妊娠したとしても流産が起こりやすくなるのです。
    詳しくはコチラ

    【不妊治療】不育症の検査方法と流れ

    当院では、良好な胚を複数回移植しても着床しない、あるいは流産するという方のために着床不全外来を設置しております。受診の目安となるのは、良好な胚を2回以上移植しても妊娠が成立しない場合(流産含む)です。また、予防として胚移植をされる前に着床不全の検査を希望することもできます。検査によって問題が見つかった場合はその対処療法を行います。その後、妊娠が成立されると、妊娠8週頃まで当院にて妊娠管理をさせていただき、その後はこれまでの治療歴を記した紹介状をお渡しし、転院先の産院で治療を継続していただきます。
    2回以上の流産・死産や、複数回移植しても妊娠娠に至らない方、またこれから体外受精を受ける前に着床系の検査を希望される方は当外来をご予約ください。

    一次スクリーニング

    免疫学的検査抗リン脂質抗体。自分を傷つける抗体反応、血液がかたまりやすくなる抗カルジオリピン抗体IgG
    抗カルジオリピン抗体IgM
    抗CL・β2GPⅠ抗体
    ループスアンチコアグラント
    自己免疫検査抗核抗体
    血中のビタミンD値を調べる検査ビタミンD値
    血中の亜鉛濃度を調べる検査亜鉛値
    凝固系検査血液が固まりやすくなり胚への血液供給が減少するAPTT
    PT
    凝固第Ⅻ因子
    プロテインS 活性
    プロテインC 活性
    代謝検査糖尿病、PCOの疑いHbA1c
    甲状腺検査甲状腺機能異常TSH、FT4、FT3
    子宮の形態子宮内腔直視下検査子宮鏡

    NK細胞

     私達が細菌やウイルス感染などをしたときなど、その敵と戦ってくれる免疫細胞であるNK(ナチュラルキラー)細胞が体内には存在しています。このNK細胞は、妊娠の成立や維持に必須の細胞で妊娠が成立する頃には、子宮内に存在する免疫細胞のうち70%以上がNK細胞だということが分かってきています。中国の大学が発表した論文では、妊娠初期、子宮内ではNK細胞が上昇し、胎盤形成後にNK細胞の減少が起こると報告されています。子宮内でのNK細胞の働きは、血管新生だけでなく、絨毛細胞増殖の作用も報告されていて、NK細胞は、胎盤の形成にかかすことのできない細胞といえますね。

     妊娠にNK細胞が必要であることをご紹介しましたが、逆の不育症・着床障害・流産の原因となるか可能性ともなりうる細胞です。

     NK細胞には種類があり、子宮内で増加するNK細胞と細菌感染などのときに働いてくれる末梢血のNK細胞とは種類が異なります。

     妊娠して、何等かの理由で傷害性の高いNK細胞が子宮内で増え、妊娠の維持に必要なNK細胞が子宮内で減ってしまっていると不育症や反復着床不全となる可能性があり、不育症や反復着床不全の方などNK細胞活性が高い場合があり、不妊症や反復着床不全の方などでは末梢NK細胞活性が高いともいわれています。その他にもNK細胞内に存在する細胞障害顆粒が流産例では増加していることが明確になっています。


    NK細胞について
    不妊とNK細胞の関係について調べながら、最初は混乱しました。
    妊娠を維持するのに必要なのに、妊娠を妨げてしまう❓
    どういうこと🤣
    妊娠時、子宮内にどの種類のNK細胞が存在しているかが大切だということだと思います。スーパーライザー照射は、着床不全の原因となるNK細胞の減少が報告されています。(不妊とスーパーライザー)

    不妊とサイトカイン

    サイトカインとは、種々の細胞から産生されます。多数の異なる細胞から産生され、多数の異なる細胞に働きかけるタンパク物質と定義されたものです。標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。免疫や炎症に関係した分子が多く、各種の増殖因子や増殖抑制因子があります。(研究.net/医学大辞典より)

    サイトカインとは主として免疫細胞などから分泌される物質で局所で作用します。

    炎症とサイトカイン

    着床時、子宮内膜では炎症のような反応が起こり胚が子宮内膜組織に着床しやすい環境が作られます。胚の着床後は炎症が行き過ぎないように炎症を抑えることで妊娠を維持します。炎症が行き過ぎないようにしているのが制御性T細胞という自己免疫やアレルギーにもかかわりのある免疫細胞であり、過剰な炎症反応を抑制することが出来ると言われています。つまり、妊娠を維持するには、炎症を起こすサイトカイン(炎症性サイトカイン)と炎症に抗うサイトカイン(抗炎症性サイトカイン)のバランスが重要だということになります。炎症性サイトカインが多すぎると受精卵の受け入れが出来なかったり、流産してしまったりします。このバランスを保つのが制御性T細胞が分泌するサイトカインになります。炎症性サイトカインを出す細胞に制御性T細胞が分泌したサイトカインが炎症性サイトカイン分泌の抑制を伝えます。

    医療機関で行う不妊治療の種類

     不妊治療は、タイミング法から段階を踏んでステップアップしていきます。治療方法は、タイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精などがありますが、それぞれについて簡単に説明していきます。

    1.タイミング法

     経腟超音波検査で卵巣内の卵子が入っている卵胞の大きさを測定し、さらには、医療機関によっては排卵検査薬で検査を行い、排卵日を予測してタイミングを合わせる方法です。

    2.排卵誘発剤などの種類

    • クロミフェン(一般的な内服薬クロミッド)
    • ゴナドトロピン製剤(hMG製剤、精製FSH、遺伝子組換型FSH製剤 etc)
    • レトロゾール(不妊治療薬として、2022年4月に承認)
    • カバサール(高プロラクチン血症の方へ処方される) etc

     タイミング療法の段階で、ホルモン値に異常がなくても排卵誘発剤の服用をすすめられることがあります。排卵誘発剤は、排卵の時期を計画的に予測でき、妊娠率がUPすることが期待できます。

    排卵誘発剤について詳しくはお知りになりたい方は一般社団法人 日本生殖医療学会をご覧ください。
    排卵誘発剤には副作用があるものもあります。副作用については、あまり詳しく書かれていないかもしれませんが、少しは書かれていたと思います。

    3.人工授精

     ヒューナー検査や精子に問題がある場合などに行われたり、タイミング法で妊娠されなかったご夫婦にステップアップとして行われたりする治療法です。
    精液を遠心機などに入れて精子を洗浄・回収します。その精子を排卵の時期にチューブ使って子宮内に注入する方法です。

    4.生殖補助医療

     生殖補助医療には体外受精と顕微授精があります。どちらも腟から卵巣に針を刺して卵子を取り出し、体外で精子と受精させ、新鮮胚もしくは凍結胚などの受精卵を、後日、子宮内に移植する方法です。
    顕微授精は、卵子に直接、精子をひとつ入れて受精させる方法です。

     生殖補助医療には、リスクがあります。
    お子さんを望まれるご夫婦の方々には、リスクの可能性も承知して、ご夫婦でしっかり話し合って生殖補助医療について考えていただきたいです。症例は少ないかもしれませんし、今後、各医療機関の努力によって更に減少していくと期待していますが、リスクについて知っていたか?知らなかったか?この違いは大きいです。

    参照

     医療機関で行う不妊治療が保険の適応となりましたのでガイドラインに沿ってどこの医療機関も進められると思います。自由診療のときは医療機関によって検査の種類や治療方法が大きく異なることもありましたが、その可能性は少ないです。一般的な治療法などについてお知りになりたい方は、一般社団法人 日本生殖医療学会をご覧ください。さまざまな質問に対して、回答がしてあります。

    妊娠とTh1/Th2バランス

    Th1とTh2の妊娠に適したバランスは、Th1の細胞機能が低く、Th2の細胞機能が高い状態だそうです。Th1/Th2のバランスが崩れ、どちらかに偏ってしまうことが流産や妊娠合併症などをひきおこすきっかけとも考えられています。
    Th1が優位の場合、体内の異物排除に働く免疫が強まり、Th1から分泌されるサイトカインは妊娠に有害となります。Th2が優位の場合、抗体などを作る免疫が強くなり、Th2が分泌するサイトカインは妊娠をサポートしていると考えられています。

    何等かの原因よりこのバランスが崩れた場合、Th1優位で自己免疫疾患、Th2優位で花粉症などのアレルギー反応がおこるようです。

    これらの他にも関係する免疫やサイトカインなどがあります。もしかすると、妊娠との関連が分かっていない免疫やサイトカインなどが存在するかもしれません。
    妊娠と免疫やサイトカインの関係が研究されるようになり、培養液にサイトカインが含有されていたり、治療にも追加されたりしています。

    妊娠と免疫グロブリン

    アレルギー疾患などとの関係でも知られているIgA(妊娠に有害)やIgG(妊娠をサポート)の関与も報告されています。IgAは外的排除に働くので、排卵期のIgAが上昇し、妊娠をサポートするIgGが減少すると、排卵期、精子に対してダメージを与える作用が強くなると考えられます。

    母体の免疫学的寛容(トレランス)

    お母さんは、出産するまでにたくさんの免疫学的寛容(トレランス)により自分とは異なる細胞を受け入れることが必要となります。
    以前から着床した胚の周囲には多くの母体リンパ球が集まっていることが知られていました。これは、胎児がお母さんに認識され受け入れられていることになります。胎児は、お父さんとお母さんの細胞を受け継いでいるのでお母さんとは異なる細胞になります。ですから、本来の免疫学からはお母さんから拒絶される可能性もあります。その胎児がお母さんから拒絶されないのは、妊娠時には免疫学的寛容(トレランス)が存在するからです。このトレランスを獲得することにより、胎児は子宮内で成長し、出生後は母乳で育つことができます。マウスの研究では妊娠期間中に限って父親抗原特異的トレランスが存在することが分かっています。その証として、母親のリンパ球の父親リンパ球に対する反応性の低下や脱落膜中での細胞傷害性T細胞の減少が報告されています。

    制御性T細胞細胞

    制御性T細胞を除去すると全身性の自己免疫疾患が発生すること、免疫寛容を引き起こすのは制御性T細胞であることが証明されています。妊娠における制御性T細胞の役割については、 制御性T細胞を除いたマウスではアロ妊娠(ヒトではすべてアロ妊娠)で流産が起こること、ヒト妊娠でも末梢血、脱落膜中で制御性T細胞が増えるが、特に脱落膜では末梢血に比し約3倍に増加すること、流産や不育症例での流産では末梢血ならびに脱落膜中の制御性T細胞のレベルが非妊婦と同等になることなどから、ヒトの妊娠維持に制御性T 細胞が重要であることが報告されています。
    また、精漿中に含まれる父親抗原により父親抗原特異的制御性T細胞が誘導され、着床に役立っていること(制御性T 細胞を着床期に除くと着床不全となる)がマウスで証明されています。またエストロゲンやプロゲステロンは制御性T細胞を増加させ、妊娠時の制御性T細胞の増加に関与していることも明らかになっています。
    胎児染色体正常流産例に限って脱落膜(特に着床部にあたる基底脱落膜)で制御性T 細胞の中で、とくに制御活性の強い細胞が減少しており、活性化T 細胞も染色体正常流産例に限って脱落膜で増加していることが分かっています。一方、これらの免疫学的変化は末梢血では観察されません。これらのことは、母子接点の場での制御性T 細胞が減少することによる免疫学的妊娠維持機構の破綻により流産が起こっていることを示唆しています。

    制御性T細胞の増加に関与すると考えらえている物質

    エストロゲン
    プロゲストロン
    GM-CSF
    末梢血NK細胞のTim-3  etc

    アメリカの大学の研究報告
    アメリカのインディアナ大学の行った研究で、性交を行った女性と行っていない女性でのTh1/Th2バランス・生殖ホルモンの関係・IgAとIgGを測定した結果が発表されました。結果、性交を頻繁に行った女性のほうの身体は妊娠しやすい免疫バランスやホルモンの状態となっていたようです。その他にも性交による炎症で、妊娠初期に子宮内で必要な種類のNK細胞が集められているという報告もあります。
    体外からこれらをプラスする治療も最近ではおこなわれ始めていますが、やはり体内で作られる、もしくは、もともと体内に存在する免疫細胞やサイトカインなどによる働きを活性化させたほうがいいのではないだろうか?と私は、思います。

    参考 公益社団法人 日本産婦人科学会 妊娠維持機構/流産に関連するトピックス
       AASJ 母親のNK細胞が胎児の成長を助ける(12月19日号Immuuity掲載論文)
       Science Signaling 末梢血NK細胞のTim-3シグナル伝達が母体胎児間の免疫寛容を促進し流産を抑制する
       Medical Tribune(2007年2月8日)、メディカルパーク横浜 培養室ブログ など

    ストレスと不妊の関係は深いと考えられています。不妊治療や妊活にストレスがどのような影響を及ぼす可能性があるのか?また、鍼灸治療でストレスが緩和できるのか?などご紹介いたします。

    ストレスとは

    ストレス理論では、人生の中で様々な出来事(ストレッサー)に遭遇するが、その遭遇した出来事が自分の対処能力を超えた脅威であると感じる時に、ストレス反応と呼ばれる症状や行動を生じさせます。とあります。
    ストレッサーとは、ストレスの原因となる刺激や要求などです。

    ストレッサーには強さがあり、強いストレッサーは大きなストレス反応を引き起こします。文部科学省のサイトでは、ストレッサーの種類を次の3つに大別しています。

    • 生活環境ストレッサー
    • 外傷性ストレッサー
    • 心理的ストレッサー

    生活環境ストレッサー

    生活環境の中から受ける刺激(出来事)のほとんどが生活環境ストレッサーです。
    大切な人との離別、喪失は特に強いストレスであり、家族、職場、友人との人間関係や環境の変化も大きなストレッサーになります。

    外傷性ストレッサー

    地震、災害、事故などその人の生命や存在に影響をおよぼす強い衝撃をもたらす出来事のことを呼びます。以下のようなものが該当します。(生活環境ストレッサーと重なるところも一部あるようです)

    1. 自然災害:地震・火災・火山の噴火・台風・洪水
    2. 社会的不安:テロ事件・暴動など
    3. 生命などの危機に関わる体験:暴力・事故など
    4. 喪失体験:家族・友人の死、大切なの物の喪失

    心理的ストレッサー

    現実に遭遇していない出来事であっても「~するかもしれない」「~したらどうしよう」と様々に考えるが、この考えがストレッサーとして作用します。
    「地震がくるかもしれない」などの否定的な予期や評価が不安や恐怖、緊張といったストレス反応を引き起こします。
    困難な状況下では、その状況から抜け出すために誰しもあれこれと考え続けてしまいます。しかし、この思考自体が持続的な心理的ストレッサーとして作用し、ストレス反応が継続することになります。

    ストレス反応は、生活環境ストレッサー、外傷性ストレッサー、心理的ストレッサーが全て加算され、複合的に作用し引き起こします。

    (文部科学省のサイトより抜粋)

    ストレッサーの影響を受けやすい自律神経とは

    自律神経とは、呼吸、循環、栄養、体温、生殖などを常時調節し、生体のホメオスターシス(恒常性)の維持に重要な働きをしています。自律神経は心筋、平滑筋臓器、分泌腺に分布しており、視床下部で自律神経の反応を全て統括しています。
    自律神経は交感神経と副交感神経に分かれ、1つの器官を両方の神経が支配していることが多いです。これを二重支配と言い、また、効果器に対する作用は相反的なため、拮抗支配とも言われています。交感神経と副交感神経は絶えず効果器に対して一定のインパルスを送って緊張を維持し、交感神経と副交感神経の緊張の平衡の上に興奮性が維持されているので、自律神経では交感神経もしくは副交感神経どちらか一方の緊張の減少は、他方の緊張の増加と同様の効果を現すことになります。(はりきゅう理論より)

    ストレス反応時の身体の反応

    生体にとって有害な出来事に出会った時は、危険から身を守るための心身の防御反応が生じます。身を守るために闘うか逃げるか、どちらの行動をとるににしても心身は、活動するための戦闘態勢を整えることになります。
    この戦闘態勢を整えるために、自律神経の中の交感神経が緊張したり、副腎皮質ホルモン(副腎コルチゾール)などを分泌する内分泌系がの活動が活発になります。(科学文部省サイトより)

    副腎皮質ホルモン分泌反応

    ストレッサーを受け本能と理性が戦う
         ↓
    理性が勝つとストレスとなる                   
         ↓
    ストレスを感じると脳(視床下部)からストレスを緩和させるホルモン分泌を促すホルモンが分泌される
         ↓
    視床下部の指令により下垂体からストレス緩和ホルモン(副腎コルチゾール)が分泌される
         ↓
    コルチゾール分泌により身体を臨戦状態にする

    自律神経による反応

    ストレッサーにより交感神経が優位になると

    • 覚醒水準が高まる
    • 不安感情が起きる
    • 瞳孔が見開く
    • 毛が逆立つ
    • 活動エネルギー供給のため呼吸が速くなる
    • 栄養と酸素を含んだ血液を全身に送るため心拍が速くなる
    • 傷を負ったとき出血を防ぐため末梢の血管が収縮し、手足が冷たくなる
    • 消化器系の活動が不要なため、食欲がなくなる
    • 排尿の活動が停止する
    • 生殖器の活動も停止する(生殖器の血管が収縮する)

    自律神経は拮抗支配のため、副交感神経が優位の場合、交感神経が優位になった場合と反対の反応が起きる

    ストレス反応と不妊の関係

    ストレスは様々な病気や症状を引き起こすと考えられています。そして、ストレスは不妊にも関係があると考えられています。私もストレスは不妊治療をされているご夫婦にとって大敵だと考えています。
    子供から大人まで現代に生きる人達はたくさんのストレスを抱えていらっしゃいます。人間関係・仕事などストレスの無い日は少ないのではないでしょうか。しかし、人の身体はとても繊細でストレスに対してあまり強くありません。そのため、気づかないうちにストレスによる身体への影響は蓄積されていると考えられます。その影響についてを考えていきたいと思います。

    ストレス反応が卵巣や子宮に与える影響

    • 視床下部からの女性ホルモン分泌の指令に支障がでる
    視床下部の働き

    視床下部は、心の状態に敏感でストレッサーや悩みに弱いことが知られています。視床下部には様々な働きがありストレス反応解消のための司令塔の役割をしています。その他に女性の生理周期をコントロールする司令塔の役割なども担っています。
    視床下部は、ストレッサーが加わった場合、ストレスホルモン分泌を優先させます。それにより女性ホルモン分泌に支障がでる場合があります。

    • 女性ホルモンが低下し、男性ホルモンが活性化する
    • 免疫力の低下。カンジタ膣炎に罹患しやすくなり、菌の増殖が加速する可能性がある。
    • 副腎コルチゾールによりドーパミンやセロニンなどの抑制
    • 副腎コルチゾール分解時に発生する活性酸素による卵子の老化促進
    • 活性酸素により身体機能の低下(卵巣や子宮の機能低下にもつながる)
    • ストレス反応により身体が緊張状態となると筋肉や血管が収縮します。このことにより、血流低下による体温低下、また、各臓器への血流量低下により体熱、酸素、栄養素、ホルモン(血液によって各臓器へ運ばれる物質)が本来必要とされる臓器へ届かなくなり、卵巣や子宮の収縮や硬くなることなどによる機能低下やホルモン不足 など

    ストレスッサーと高プロラクチン血症

    ドーパミンとは、何等かの行動に対して快感を感じさせたり、経験した快感を記憶し再度その快感を得るためのモチベーションを生じさせたりする働きがあります。また、さらに効率よく快感を得るための学習、精度の向上をはかったり、物事への執着、集中力向上や疲労軽減などに対しての働きなどもあります。

    その他にドーパミンにはストレッサーを打ち消す作用があり、様々な働きをしてくれています。そのドーパミンがストレスにより分泌低下がおこると、体内ではドーパミンを分泌できないことがストレッサーとなり、ストレス反応を強めてしまう結果となります。

    ドーパミンプロラクチンの拮抗物質でもあります。ドーパミンプロラクチンを活性化しないようにする働きをもっているため、ドーパミンが減少するプロラクチンが活性化高プロラクチン血症になる場合があります。

    ストレス緩和と不妊

    不妊にストレス反応が関係していることは知られています。だから『何とかしたい。』『何とかしなきゃ。』と思ってはいるけど、自分だけでは何ともできないということもあります。また、ストレス解消や緩和のために色々やっているけれど上手くいかない。こともあるかもしれません。そして、気がつかないうちにストレス反応によるさまざま影響が出てしまっていることがあります。
    鍼灸治療は、ストレッサーによる影響を緩和し、ストレス反応により起こっている身体の変化をストレス反応が起こる前の状態に戻せる可能性があります。

    ストレスの影響を受けた自律神経

    なぜ、ストレッサーより自律神経が影響を受けるか?
    それが、なぜ、不妊治療や妊活をされている皆さんにとって良くないのか?ということに触れていこうと思います。

    私達が生活していく中で大切なのは、自律神経の交感神経または副交感神経のどちらかが優位になり過ぎてはいけない。ということです。自律神経はこの2つの神経が天秤で平衡に保たれている状態が良いと言われています。

    〈ストレッサーによる刺激が多すぎる〉

    いつも緊張しているので交感神経が優位となる状態が長く続きます。緊張が続くので疲れます。

    〈ストレッサーによる刺激が少なすぎると〉

    緊張する必要がないのでやる気が起こりにくい副交感神経が優位の状態が長く続きます。緊張がないと動くのが嫌になってしまいます。

    〈ストレッサーの強さではなく、処理可能な強さ〉

    刺激が適度にあったほうがいいけれど、大切なのは、そのストレッサーが自分で処理可能な強さなのか?ということです。その処理可能なストレッサーの強さは人によって処理速度も処理能力も異なってきます。
    もし、自分の処理能力よりもストレッサーが強すぎたり、多すぎたりした場合、体の中でストレッサー過剰となり、ストレス反応として交感神経優位、また、ストレスホルモンである副腎皮質コルチコイドが分泌されます。どちらも自分の生命を守るために必要な反応となりますが、これが不妊治療や妊活される場合は、様々なところに影響を与えていることがあります。

    〈不妊治療はストレスが増す〉

    不妊治療をされている多くの方が治療開始前からプレッシャーなどがストレッサーとなっています。そして、不妊治療のため病院を受診し始めたことでストレッサーが増える場合が多いです。
    『検査結果は大丈夫かな』、『何か異常が出たらどうしよう』、『採卵できるかな』、『受精してなかったら』、『内膜厚くなるかな』などのストレッサーなど遭遇することになってしまいます。
    また、不妊治療中は不安な気持ちになりやすいので、不妊治療について考える時間が増え、これがストレッサーとして日に日に増してしまう可能性もあります。

    〈交感神経が優位過ぎると〉

  • 子宮や卵巣などの骨盤内空臓器の血流が悪くなる
    卵子や卵胞、子宮内膜などに必要な栄養素、女性ホルモン、酸素、水分などが届きにくくなる。
  • 消化器が機能低下する
    食事に気をつけ、サプリメントなどで不足している成分を補っても消化・吸収する力が劣り、大腸内にも食物が停滞しやすいので便秘しやすくなります。そうすると卵子にとって敵となる毒素を水分と一緒に体内に取り入れることになります。
  • 卵子や卵胞の成長に影響を与える
    ストレスによりドーパミンが減少すると、プロラクチンを抑制できなくなり卵胞が成長しにくくなることもあります。他にもストレス解消のために分泌された物質を分解する際に発生する活性酸素で卵子の老化促進してしまったりすることもあります。
  • 卵巣や子宮などの機能低下を引き起こすことも
  • 不育症などと関係する免疫機能にも影響を与える
  • これらのことが検査などでは発見できない因子となっている可能性もあると考えます。

    〈交感神経冷え〉

    交感神経が優位の状態では、ケガしたときの大量出血を防ぐため末梢血管は収縮します。これが手足の冷えに繋がります。この冷えを気にされている方も多いです。でも、当院では、手足が冷えていても妊娠される方も多いので、冷えがあることが不妊の因子となるとは考えていません。
    手足が冷えていても骨盤内空の血流や消化器の血流など妊娠に必要な働きをしてくれるところにしかっり血流を送って栄養などが届いてくれていることが大切だと思っているからです。実際、霜焼けができるほど手足の血行が悪くても妊娠されていますし、逆に手足はポカポカなのになかなか思うよう妊娠に繋がらない方もいらっしゃいます。

    〈ストレスによる影響を取り除けたら〉

    もし、これらのことがご夫婦の不妊と関係しているのだったら、何等かの形でこれらに働きかけることができれば卵子の質が変化し、血流もよくなり、妊娠に必要な栄養素やホルモンが卵巣や子宮に届き、内膜も受精卵を受け入れる状態を作ることができます。さらには、免疫機能も良い状態へと変化させることができれば、不育症や着床不全なども防止できる可能性があり、妊娠に繋がりやすい身体へと変わっていくことになります。鍼灸治療は、これらのことが期待できる治療法だと思っています。
    鍼灸治療がどのような変化をもたらすのかご紹介していきます。

    鍼の刺激と脳の関係

    鍼の刺激は、脳波学的研究や脳内モノアミンに関する基礎研究になどよりリラクゼーション効果があるといわれています。

    鍼刺激とリラクゼーション

    鍼刺激時にリラックス時に観測される脳波が観測されることが研究により報告されています。脳には、緊張しているときに活動的になっている部分があります。その部分を手や足などの鍼刺激で鎮静化させ、リラクゼーション効果が得られると考えられています。

    鍼の刺激による神経伝達物質への影響

    リラクゼーションには、精神安定や心の落ち着きに関与するセロトニンや快感などに関与するドーパミンなどの神経伝達物質の関与も欠かすことはできません。

    【鍼の刺激による】
    セロトニンの分泌増加

    【鍼の刺激による】
    リラックス効果によりドーパミンの分泌増加

    【鍼の刺激による】
    ストレスホルモン伝達の抑制

    鍼灸治療によるさまざまな効果

    不妊治療中は、不安や焦りなどといったストレッサーとの闘いでもあります。
    しかし、それらが大きなストレス反応となってしまった場合、そのストレス反応が原因で女性ホルモン分泌調整や卵子の老化、卵巣や子宮への血流などさまざまな弊害を生んでしまう可能性があります。妊娠するために病院に通って、その他にもいろりいろやっているのに妊娠に結びつかない。などの状況にも陥ってしまう可能性もあります。

    鍼灸治療を取り入れてストレス反応を軽減することができたら以下のことが期待できます。

  • 子宮や卵巣などの骨盤内空臓器の血流が良くなる
    卵子や卵胞、子宮内膜などに必要な栄養素、女性ホルモン、酸素、水分などが届くようになる。
  • 消化器が機能が改善する
    食事やサプリメントなどで補った栄養素を消化・吸収して全身に運べること。また、大腸の蠕動運動促進効果。
  • 卵子や卵胞の成長に影響を与える
    ストレス反応により減少したドーパミンの増加。プロラクチンの分泌を抑制し卵胞の成長に影響を与える。
  • 卵巣や子宮などの機能低下の改善
  • 免疫機能の改善による影響  etc