ストレスと不妊の関係は深いと考えられています。不妊治療や妊活にストレスがどのような影響を及ぼす可能性があるのか?また、鍼灸治療でストレスが緩和できるのか?などご紹介いたします。

    ストレスとは

    ストレス理論では、人生の中で様々な出来事(ストレッサー)に遭遇するが、その遭遇した出来事が自分の対処能力を超えた脅威であると感じる時に、ストレス反応と呼ばれる症状や行動を生じさせます。とあります。
    ストレッサーとは、ストレスの原因となる刺激や要求などです。

    ストレッサーには強さがあり、強いストレッサーは大きなストレス反応を引き起こします。文部科学省のサイトでは、ストレッサーの種類を次の3つに大別しています。

    • 生活環境ストレッサー
    • 外傷性ストレッサー
    • 心理的ストレッサー

    生活環境ストレッサー

    生活環境の中から受ける刺激(出来事)のほとんどが生活環境ストレッサーです。
    大切な人との離別、喪失は特に強いストレスであり、家族、職場、友人との人間関係や環境の変化も大きなストレッサーになります。

    外傷性ストレッサー

    地震、災害、事故などその人の生命や存在に影響をおよぼす強い衝撃をもたらす出来事のことを呼びます。以下のようなものが該当します。(生活環境ストレッサーと重なるところも一部あるようです)

    1. 自然災害:地震・火災・火山の噴火・台風・洪水
    2. 社会的不安:テロ事件・暴動など
    3. 生命などの危機に関わる体験:暴力・事故など
    4. 喪失体験:家族・友人の死、大切なの物の喪失

    心理的ストレッサー

    現実に遭遇していない出来事であっても「~するかもしれない」「~したらどうしよう」と様々に考えるが、この考えがストレッサーとして作用します。
    「地震がくるかもしれない」などの否定的な予期や評価が不安や恐怖、緊張といったストレス反応を引き起こします。
    困難な状況下では、その状況から抜け出すために誰しもあれこれと考え続けてしまいます。しかし、この思考自体が持続的な心理的ストレッサーとして作用し、ストレス反応が継続することになります。

    ストレス反応は、生活環境ストレッサー、外傷性ストレッサー、心理的ストレッサーが全て加算され、複合的に作用し引き起こします。

    (文部科学省のサイトより抜粋)

    ストレッサーの影響を受けやすい自律神経とは

    自律神経とは、呼吸、循環、栄養、体温、生殖などを常時調節し、生体のホメオスターシス(恒常性)の維持に重要な働きをしています。自律神経は心筋、平滑筋臓器、分泌腺に分布しており、視床下部で自律神経の反応を全て統括しています。
    自律神経は交感神経と副交感神経に分かれ、1つの器官を両方の神経が支配していることが多いです。これを二重支配と言い、また、効果器に対する作用は相反的なため、拮抗支配とも言われています。交感神経と副交感神経は絶えず効果器に対して一定のインパルスを送って緊張を維持し、交感神経と副交感神経の緊張の平衡の上に興奮性が維持されているので、自律神経では交感神経もしくは副交感神経どちらか一方の緊張の減少は、他方の緊張の増加と同様の効果を現すことになります。(はりきゅう理論より)

    ストレス反応時の身体の反応

    生体にとって有害な出来事に出会った時は、危険から身を守るための心身の防御反応が生じます。身を守るために闘うか逃げるか、どちらの行動をとるににしても心身は、活動するための戦闘態勢を整えることになります。
    この戦闘態勢を整えるために、自律神経の中の交感神経が緊張したり、副腎皮質ホルモン(副腎コルチゾール)などを分泌する内分泌系がの活動が活発になります。(科学文部省サイトより)

    副腎皮質ホルモン分泌反応

    ストレッサーを受け本能と理性が戦う
         ↓
    理性が勝つとストレスとなる                   
         ↓
    ストレスを感じると脳(視床下部)からストレスを緩和させるホルモン分泌を促すホルモンが分泌される
         ↓
    視床下部の指令により下垂体からストレス緩和ホルモン(副腎コルチゾール)が分泌される
         ↓
    コルチゾール分泌により身体を臨戦状態にする

    自律神経による反応

    ストレッサーにより交感神経が優位になると

    • 覚醒水準が高まる
    • 不安感情が起きる
    • 瞳孔が見開く
    • 毛が逆立つ
    • 活動エネルギー供給のため呼吸が速くなる
    • 栄養と酸素を含んだ血液を全身に送るため心拍が速くなる
    • 傷を負ったとき出血を防ぐため末梢の血管が収縮し、手足が冷たくなる
    • 消化器系の活動が不要なため、食欲がなくなる
    • 排尿の活動が停止する
    • 生殖器の活動も停止する(生殖器の血管が収縮する)

    自律神経は拮抗支配のため、副交感神経が優位の場合、交感神経が優位になった場合と反対の反応が起きる

    ストレス反応と不妊の関係

    ストレスは様々な病気や症状を引き起こすと考えられています。そして、ストレスは不妊にも関係があると考えられています。私もストレスは不妊治療をされているご夫婦にとって大敵だと考えています。
    子供から大人まで現代に生きる人達はたくさんのストレスを抱えていらっしゃいます。人間関係・仕事などストレスの無い日は少ないのではないでしょうか。しかし、人の身体はとても繊細でストレスに対してあまり強くありません。そのため、気づかないうちにストレスによる身体への影響は蓄積されていると考えられます。その影響についてを考えていきたいと思います。

    ストレス反応が卵巣や子宮に与える影響

    • 視床下部からの女性ホルモン分泌の指令に支障がでる
    視床下部の働き

    視床下部は、心の状態に敏感でストレッサーや悩みに弱いことが知られています。視床下部には様々な働きがありストレス反応解消のための司令塔の役割をしています。その他に女性の生理周期をコントロールする司令塔の役割なども担っています。
    視床下部は、ストレッサーが加わった場合、ストレスホルモン分泌を優先させます。それにより女性ホルモン分泌に支障がでる場合があります。

    • 女性ホルモンが低下し、男性ホルモンが活性化する
    • 免疫力の低下。カンジタ膣炎に罹患しやすくなり、菌の増殖が加速する可能性がある。
    • 副腎コルチゾールによりドーパミンやセロニンなどの抑制
    • 副腎コルチゾール分解時に発生する活性酸素による卵子の老化促進
    • 活性酸素により身体機能の低下(卵巣や子宮の機能低下にもつながる)
    • ストレス反応により身体が緊張状態となると筋肉や血管が収縮します。このことにより、血流低下による体温低下、また、各臓器への血流量低下により体熱、酸素、栄養素、ホルモン(血液によって各臓器へ運ばれる物質)が本来必要とされる臓器へ届かなくなり、卵巣や子宮の収縮や硬くなることなどによる機能低下やホルモン不足 など

    ストレスッサーと高プロラクチン血症

    ドーパミンとは、何等かの行動に対して快感を感じさせたり、経験した快感を記憶し再度その快感を得るためのモチベーションを生じさせたりする働きがあります。また、さらに効率よく快感を得るための学習、精度の向上をはかったり、物事への執着、集中力向上や疲労軽減などに対しての働きなどもあります。

    その他にドーパミンにはストレッサーを打ち消す作用があり、様々な働きをしてくれています。そのドーパミンがストレスにより分泌低下がおこると、体内ではドーパミンを分泌できないことがストレッサーとなり、ストレス反応を強めてしまう結果となります。

    ドーパミンプロラクチンの拮抗物質でもあります。ドーパミンプロラクチンを活性化しないようにする働きをもっているため、ドーパミンが減少するプロラクチンが活性化高プロラクチン血症になる場合があります。

    ストレス緩和と不妊

    不妊にストレス反応が関係していることは知られています。だから『何とかしたい。』『何とかしなきゃ。』と思ってはいるけど、自分だけでは何ともできないということもあります。また、ストレス解消や緩和のために色々やっているけれど上手くいかない。こともあるかもしれません。そして、気がつかないうちにストレス反応によるさまざま影響が出てしまっていることがあります。
    鍼灸治療は、ストレッサーによる影響を緩和し、ストレス反応により起こっている身体の変化をストレス反応が起こる前の状態に戻せる可能性があります。

    ストレスの影響を受けた自律神経

    なぜ、ストレッサーより自律神経が影響を受けるか?
    それが、なぜ、不妊治療や妊活をされている皆さんにとって良くないのか?ということに触れていこうと思います。

    私達が生活していく中で大切なのは、自律神経の交感神経または副交感神経のどちらかが優位になり過ぎてはいけない。ということです。自律神経はこの2つの神経が天秤で平衡に保たれている状態が良いと言われています。

    〈ストレッサーによる刺激が多すぎる〉

    いつも緊張しているので交感神経が優位となる状態が長く続きます。緊張が続くので疲れます。

    〈ストレッサーによる刺激が少なすぎると〉

    緊張する必要がないのでやる気が起こりにくい副交感神経が優位の状態が長く続きます。緊張がないと動くのが嫌になってしまいます。

    〈ストレッサーの強さではなく、処理可能な強さ〉

    刺激が適度にあったほうがいいけれど、大切なのは、そのストレッサーが自分で処理可能な強さなのか?ということです。その処理可能なストレッサーの強さは人によって処理速度も処理能力も異なってきます。
    もし、自分の処理能力よりもストレッサーが強すぎたり、多すぎたりした場合、体の中でストレッサー過剰となり、ストレス反応として交感神経優位、また、ストレスホルモンである副腎皮質コルチコイドが分泌されます。どちらも自分の生命を守るために必要な反応となりますが、これが不妊治療や妊活される場合は、様々なところに影響を与えていることがあります。

    〈不妊治療はストレスが増す〉

    不妊治療をされている多くの方が治療開始前からプレッシャーなどがストレッサーとなっています。そして、不妊治療のため病院を受診し始めたことでストレッサーが増える場合が多いです。
    『検査結果は大丈夫かな』、『何か異常が出たらどうしよう』、『採卵できるかな』、『受精してなかったら』、『内膜厚くなるかな』などのストレッサーなど遭遇することになってしまいます。
    また、不妊治療中は不安な気持ちになりやすいので、不妊治療について考える時間が増え、これがストレッサーとして日に日に増してしまう可能性もあります。

    〈交感神経が優位過ぎると〉

  • 子宮や卵巣などの骨盤内空臓器の血流が悪くなる
    卵子や卵胞、子宮内膜などに必要な栄養素、女性ホルモン、酸素、水分などが届きにくくなる。
  • 消化器が機能低下する
    食事に気をつけ、サプリメントなどで不足している成分を補っても消化・吸収する力が劣り、大腸内にも食物が停滞しやすいので便秘しやすくなります。そうすると卵子にとって敵となる毒素を水分と一緒に体内に取り入れることになります。
  • 卵子や卵胞の成長に影響を与える
    ストレスによりドーパミンが減少すると、プロラクチンを抑制できなくなり卵胞が成長しにくくなることもあります。他にもストレス解消のために分泌された物質を分解する際に発生する活性酸素で卵子の老化促進してしまったりすることもあります。
  • 卵巣や子宮などの機能低下を引き起こすことも
  • 不育症などと関係する免疫機能にも影響を与える
  • これらのことが検査などでは発見できない因子となっている可能性もあると考えます。

    〈交感神経冷え〉

    交感神経が優位の状態では、ケガしたときの大量出血を防ぐため末梢血管は収縮します。これが手足の冷えに繋がります。この冷えを気にされている方も多いです。でも、当院では、手足が冷えていても妊娠される方も多いので、冷えがあることが不妊の因子となるとは考えていません。
    手足が冷えていても骨盤内空の血流や消化器の血流など妊娠に必要な働きをしてくれるところにしかっり血流を送って栄養などが届いてくれていることが大切だと思っているからです。実際、霜焼けができるほど手足の血行が悪くても妊娠されていますし、逆に手足はポカポカなのになかなか思うよう妊娠に繋がらない方もいらっしゃいます。

    〈ストレスによる影響を取り除けたら〉

    もし、これらのことがご夫婦の不妊と関係しているのだったら、何等かの形でこれらに働きかけることができれば卵子の質が変化し、血流もよくなり、妊娠に必要な栄養素やホルモンが卵巣や子宮に届き、内膜も受精卵を受け入れる状態を作ることができます。さらには、免疫機能も良い状態へと変化させることができれば、不育症や着床不全なども防止できる可能性があり、妊娠に繋がりやすい身体へと変わっていくことになります。鍼灸治療は、これらのことが期待できる治療法だと思っています。
    鍼灸治療がどのような変化をもたらすのかご紹介していきます。

    鍼の刺激と脳の関係

    鍼の刺激は、脳波学的研究や脳内モノアミンに関する基礎研究になどよりリラクゼーション効果があるといわれています。

    鍼刺激とリラクゼーション

    鍼刺激時にリラックス時に観測される脳波が観測されることが研究により報告されています。脳には、緊張しているときに活動的になっている部分があります。その部分を手や足などの鍼刺激で鎮静化させ、リラクゼーション効果が得られると考えられています。

    鍼の刺激による神経伝達物質への影響

    リラクゼーションには、精神安定や心の落ち着きに関与するセロトニンや快感などに関与するドーパミンなどの神経伝達物質の関与も欠かすことはできません。

    【鍼の刺激による】
    セロトニンの分泌増加

    【鍼の刺激による】
    リラックス効果によりドーパミンの分泌増加

    【鍼の刺激による】
    ストレスホルモン伝達の抑制

    鍼灸治療によるさまざまな効果

    不妊治療中は、不安や焦りなどといったストレッサーとの闘いでもあります。
    しかし、それらが大きなストレス反応となってしまった場合、そのストレス反応が原因で女性ホルモン分泌調整や卵子の老化、卵巣や子宮への血流などさまざまな弊害を生んでしまう可能性があります。妊娠するために病院に通って、その他にもいろりいろやっているのに妊娠に結びつかない。などの状況にも陥ってしまう可能性もあります。

    鍼灸治療を取り入れてストレス反応を軽減することができたら以下のことが期待できます。

  • 子宮や卵巣などの骨盤内空臓器の血流が良くなる
    卵子や卵胞、子宮内膜などに必要な栄養素、女性ホルモン、酸素、水分などが届くようになる。
  • 消化器が機能が改善する
    食事やサプリメントなどで補った栄養素を消化・吸収して全身に運べること。また、大腸の蠕動運動促進効果。
  • 卵子や卵胞の成長に影響を与える
    ストレス反応により減少したドーパミンの増加。プロラクチンの分泌を抑制し卵胞の成長に影響を与える。
  • 卵巣や子宮などの機能低下の改善
  • 免疫機能の改善による影響  etc